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静寂と四季の彩り、湯に浸り
人は本来の姿に還る

  • 白骨物語
  • 守る人

Interview 09

鎌倉時代から続く歴史を知り、
「守らなければ」と思った。

私は長野市で生まれ育ちました。結婚を機に乗鞍へ、そのあと白骨温泉に来ました。
初めて訪れたとき、「こんな山奥に温泉があるのか」と驚いたのを覚えています。

宿で働く前は、小学校の教員をしていました。夫が宿を継ぐことになったとき、元の仕事を続けるか迷いましたが、最後は、宿を手伝うことに決めました。
その決意ができたのは、温泉の長い歴史と、ここを守ってきた人の思いを知ったからです。たとえばもし、ここが最近できたばかりのホテルだったら、宿は夫に任せ、自分は教員を続けていたかもしれません。

新しいものは今からでもつくれますが、歴史はつくることができません。お客様に「このお湯は、鎌倉時代から湧いているんですよ」と言うと、みなさん驚かれます。このあたりには鎌倉街道が通っていたので、往来する人々が温泉に入り、身体を休めたり、怪我を治癒したりしていたそうです。

こんなにも歴史があって、大切に守られてきた場所なのだから、守っていかなければならないと。私も一緒に守りたいと、強く思いました。

お客様のなかには、白骨温泉に憧れを持って来られる方も多くいらっしゃいます。「ずっと来たかった、やっと来ることができた」「三回も四回も、温泉に入っちゃったよ」なんて伝えてくださる方もいます。
周辺には、上高地や飛騨高山など観光地がたくさんあるので、宿泊地として来られる方も多いです。でも、せっかく白骨温泉にいらっしゃるなら、ここを目的地にして、ゆっくり滞在してもらえるとなおうれしいですね。

白骨温泉の魅力は、間違いなく「お湯」です。限りなく中性に近い弱酸性なので、お肌にとても優しいんですよ。お子様のアトピーにもいい、と言ってくださる方もいます。
うちの三人の息子は、産湯も白骨温泉でした。そのおかげか三人とも温泉好きで、小学四年生の長男はすでに「僕は絶対に旅館を継ぐ」と言っています。

私は外から来た人間だからこそ、ずっと変わらない景色があることが、当たり前ではないとわかります。街はすごいスピードで変わっていってしまうけれど、ここには何十年も前と同じ景色が、今も広がっている。夫のように、白骨温泉で育った人には当たり前のことでも、はたから見ればそれはすごく特別なことです。

そういえばこのあいだ(十月後半)、朝の二〜三時間だけ雪が降って、紅葉の上に雪が積もったんですよ。たまたま今年は紅葉が遅くて、初雪が早かったので見られた景色でした。自然の不思議さと美しさには、いつもはっとさせられます。

温泉を残すということは、この景色を守ることと同義なのだと思います。今見えている景色を、息子たちの代にも残していきたいですね。

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