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静寂と四季の彩り、湯に浸り
人は本来の姿に還る

  • 白骨物語
  • 守る人

Interview 10

このままがいい。

私は、白骨温泉で生まれました。
十八歳で東京に出て、三十三歳のとき、白骨温泉へ帰ってきました。
帰ってきたばかりの時は、今のような意識はありませんでしたが、ここに戻り再び生活を送るなかで、「生まれ育った場所を守る」という気持ちが強くなってきました。

ここの景色は、ずっと変わらないですね。東京にいるあいだもよく手伝いに来ていましたが、今あらためてそう思います。

白骨温泉を何度も訪れる方は、お湯や、ここに流れる時間を求めています。
うちの宿には、Wi-Fiも最新の設備もありませんが、昔ながらの旅館の雰囲気があります。多少不便なことこそが、価値なのかもしれません。
ここで過ごす間は、携帯を見ず、目の前のものに集中してほしいですね。日常の「当たり前」から距離を取り、料理や景色、そして、今自分がいる場所を感じてほしい。温泉に入る。ビールを飲む。夕食を食べる。寝る。シンプルですが、そんな過ごし方が齋藤別館らしい、白骨温泉らしいと思います。

ご常連様のなかには、私が子どものころから通ってくださっている方もいます。そういう方とは「最近どうだい」「おもしろいことあったかい」と、他愛もない話や身の上話をします。何度も通ってくださる方は、表層の魅力ではなく、一枚めくった「本質」をわかってくださっているのだと思います。僕たちが何を大事にしているのか、つまり、心の部分を。

白骨温泉の宿はそれぞれ雰囲気が異なるので、なかには数日滞在し、複数の宿を泊まり歩くお客様もいらっしゃいます。通うなかで自分の「推し宿」を見つけ、常連さんになる方が多いです。
何度も訪れる方がいるということは、ここが、飽きない場所だということ。新しい建物ができることはありませんが、自然は常に表情を変えます。年を重ねるごとに、景色の見え方も変わっていきます。

私は、白骨温泉はこのままがいい、と思っています。でも変わらないために、変わっていくこともあるのかな。

外に立つと毎日思います。ここは最高だと。
残雪と緑が見える春も、夜が寒いと言われる夏も、すぐ葉が落ちる秋も、雪に音を吸われて鎮まる冬も。毎日気持ちが変わります。この場所への気持ちが、深くなっていく。だから、この白骨温泉を変えたくはない。変えないために、守っていくために、私たちが変わっていかなければなりません。

白骨温泉には、昔と同じ空気が流れ、温泉が変わらず湧き出ています。どれだけ時代が変わっても、ここでは、昔ながらの日本文化を体感できる。そんな場所として、白骨温泉がこの先も百年、二百年と続いてくれたらうれしいです。

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