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静寂と四季の彩り、湯に浸り
人は本来の姿に還る

  • 白骨物語
  • 守る人

Interview 06

“いい湯”をいつまでも

白骨温泉の女将たちの思いは、みんなきっと同じ。
「白骨温泉を守りたい」。それだけです。

私は、湯元齋藤旅館の長女として生まれました。ご先祖様から引き継いだこの地を、この宿を守るという一心で、家業を支えてきました。
この宿ができたのは、昭和七年です。当時、本館はまだ湯治場のような宿でしたので、賓客をもてなす宿として、別館が建てられました。天井と床の間は、今も九十年以上前のまま。歌人・斎藤茂吉や折口信夫が泊まった形跡も残っています。

以前いらっしゃった環境省OBの方が、「時間の経過はお金では買えない」と言っておられました。本当にその通りだと思います。どれだけお金をかけても、この木造建築が醸し出す雰囲気は、買うことができません。

昔は医療が発達していなかったので、温泉と信仰はともにありました。訪れる方はみんな、お薬師様に病気平癒を祈ってお絵馬をかけ、温泉に入っていました。胃潰瘍のお客様が一ヶ月ほど湯治に来られることもあれば、健康を維持するため、定期的に訪れる方もいらっしゃいました。医療が発達した今でも、温泉の効力を求めて湯治に来られる方はたくさんいらっしゃいます。

白骨温泉には、特別なものはありません。あるのは「いいお湯」だけ。何もない自然のなかで過ごす時間こそ、今の時代に必要なことなのではないかと思います。

私は、この部屋の窓から見える、見晴峠を望む景色が好きです。子供の頃から眺めていますが、心がほっとします。春には若芽が萌え秋はカラマツが黄色く色づいて、落ち葉がゆっくり散っていくのが見えます。美しくも寂寥感があって。この情景が歌に詠まれるのも、よくわかります。

どの宿にも、常連さんがいらっしゃいます。私たちは「待ってましたよ」「また来てくださいね」と、必ずお出迎え・お見送りをします。世代を越えて七十年以上通ってくださる方もいますし、毎年同じ場所で記念写真を撮っていかれる方もいます。お客様とのつながりを、一番大切にしていきたと思っています。

残したいのは、かたちじゃなくてこころ。この自然を守ろう、この温泉を守ろうというこころが残っているからこそ、今も白骨温泉では、昔ながらの営みが続いているのだと思います。この温泉を愛してくださる方に、来てもらえたら幸せです。

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