本文へ

静寂と四季の彩り、湯に浸り
人は本来の姿に還る

  • 白骨物語
  • 守る人

Interview 02

何時来ても 変わらぬ香り なつかしく
緑の谷間 いこうべし

これは、私が白骨温泉を詠んだ歌だ。

私が子どものころは、学校に通うために、親元を離れなければならなかった。まだ道が整備されておらず、送迎が難しかったからだ。
幼いながらに親と離れて暮らし、休みになると峠を越えて、白骨温泉に帰って来た。道中、お湯の匂いがしてくると、ああふるさとの香りだと、なつかしい心地がしたものだ。

気がつけば私は、白骨温泉で一番の長老と呼ばれるようになった。
この地域唯一の商店を、ずっと守ってきた。

店を引き継いだのは、十八歳のときだ。当時は仕入れにも一苦労で、街まで出かけた父を迎えに行き、自分が荷物を背負い、店まで歩いて運んでいた。
原動力は、白骨温泉をよくしたいという一心だった。その稼ぎで、一番下の弟を大学に行かせてやることができた。

お得意さんは折りに触れ、私に話してくれた。「批判でも賞賛でも、周りの声はよく聞きなさい。人の話を聞くからこそ、人は成長できる。そうすれば、誰かを喜ばせることができて、稼げるようになる。お金が貯まると心が豊かになって、前方がさらに見えるようになる」と。人間は貧乏だと悪いことを考えもするが、それをハングリー精神に変えて動くことができる。どんな状況でも、光を持っていなければならないのだと教わった。これらの教えは、すべて自分の宝だ。

今でも、話を聞くことは大切にしている。孫やせがれの話を聞いて、そうか、と気づかせてもらうこともある。

お得意さんからは、店についても「これおいしかったから、あんたのところでも扱うといいよ」と助言をたくさんもらった。そのおかげで、信頼できる人たちとのつながりができた。みんな、「親父さんなら気に入ると思って」と言って、商品を持ってきてくれる。私も「好きなようにやってくれ」と、安心して任せられる。

お客様との距離感も大切にしている。ただ商品を売るだけではなく、「今日は寒いですね」「今朝は零度だったそうですよ」と声をかける。こちらから歩み寄ったほうが、相手も心を開いてくれるからだ。
うちには常連さんが多く、「また来月来る」と言って帰っていく方もいる。先代のころは、「よかったらお茶飲んで行きな」と言って、上がってもらうこともあったそうだ。

今の白骨温泉は、ご先祖様が耕してくれた土壌の上にある。その敬意を忘れてはいけない。大切にされてきた営みは、続けていかなければいけない。

白骨温泉で生きる全員が、「ここをどんな場所にしていきたいのか、どうすればお客様に喜ばれるのか、そのために何をすべきなのか」を考え、主体的に動くべきだ。古の価値を守りながら、若い人たちにとっての魅力を探し、伝え残していきたいと思っている。

記事一覧へ戻る 次の物語を読む