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静寂と四季の彩り、湯に浸り
人は本来の姿に還る

  • 白骨物語
  • 守る人

Interview 08

かつて自分が育った場所に、
恩返しをしたいと思う。

最近、とあるお客様が、白黒写真を持って訪ねてこられました。私よりも、はるかに年上の方でした。
聞けば「祖父が昔白骨温泉で撮った写真と、同じ場所を探している」とのこと。見るとそれは、うちの旅館の窓から眺めた景色でした。イチョウの場所も、山の稜線も、何も変わっていませんでした。

時を超えて、同じ景色がここにある。
これこそが、白骨温泉の価値だと思います。

私は白骨温泉で生まれ育ちました。子どものころから温泉が遊び場で、夕方、お客様のお食事時間になると温泉に駆けていって、弟と水(お湯)遊びをしていました。
大人になってから一度、白骨温泉を出ましたが、心のどこかで「いつか戻る」と思っていました。だから「齋藤旅館を継いでほしい」と話があったとき、引き受けることに迷いはありませんでした。恩返しをする番だと。白骨温泉に育ててもらった恩を、返す時が来たのだと思いました。

白骨温泉は、決して華やかな観光地ではありません。だからこそ、「一人になる」ことができる場所だと思います。喧騒から離れ、日頃の緊張を解いて、本来の自分に還ることができる。それこそ「還る場所、しらほね」です。

できれば早めに着いて、ゆっくりお湯に浸かってほしい。そのあとは、部屋でビールを飲んだり、ただぼうっとしたり。夜になったらごはんを食べて、また温泉に入り、あたたかい布団に入って眠る。朝日を浴びて起き、朝風呂に入り、温泉で作ったおかゆを食べ、硫黄の匂いをほのかにまとって帰っていく。そんな滞在を、何度でもしてほしいです。

今の自分は、旅館のことだけではなく、地域全体のことを考えなければならない立場です。ご先祖さまが守ってきてくれた、そして自分が生まれ育ったこの場所を、次の世代に残していかなければなりません。
道路や建物など、時代に合わせて変わったものはありますが、白骨温泉の本質はずっと変わりません。ここには温泉があり、私たちはずっと、温泉に生かされているということ。ここで生きる人それぞれに考えがあると思いますが、お湯と自然への敬意は、共通しているはずです。

自分が子どものころに入っていた風呂は、まだ同じ場所に残っています。そこで今、息子たちが同じように遊んでいるんです。
小学生の長男は、すでに「この宿を継ぐ」と言ってくれています。生まれたときから、自分が宿に立っている姿を見ているからでしょうか。私が白骨温泉に対して抱く愛着を、自然と感じ取っているのかもしれません。

温泉ではしゃぐ息子たちに、かつての自分たちを重ねながら、彼らの代へ、そしてその先へ、白骨温泉の景色を残していきたいと、強く思っています。

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